『Slay the Spire』が初見でも上手い人は「再確認が少ない」「視野が広い」傾向との研究結果。“次の一手”に繋げるゲームの上手さと“視線移動”の関係を解き明かす試み

オーストラリア国立大学の研究チームによって、ゲームパフォーマンスと視線移動の関連が研究された。ボスに勝てたグループとそうでないグループでは、視線移動の仕方に差があったようだ。
オーストラリア国立大学の研究チームは7月、ビデオゲームにおける視線の動きが、ゲームパフォーマンスとどのような関係にあるかを研究した論文を発表した。「戦略性のある視線:ゲームプレイの結果に応じた機能的関心領域間での注意配分と遷移パターン(Strategic Gaze: Attention Allocation and Transition Patterns Across Functional Areas of Interest by Gameplay Outcome)」と題するこの論文は、学術論文の共有サイトarXivで公開されており、誰でも無料で閲覧できる。なお、本論文にはコンピュータサイエンスにおける査読(第三者による審査)付きの国際学術誌、「Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction(PACMHCI)」の第10巻・第7号(2026年11月発行)への掲載情報が含まれている。 本研究では、デッキ構築型ローグライクゲーム『Slay the Spire』のゲーム画面におけるプレイヤーの視線移動の傾向を、ゲームプレイの成否で分けた2グループ間で比較。結果として、勝利したグループではより均等かつ多様で、細やかな視線移動の傾向が見られたのに対し、敗北してしまったグループでは敵情報への視線の滞留時間が長く、より限定的で偏った傾向がみられた。 研究チームは視線移動の傾向を調べるため、ゲーム画面にプレイヤーにとって関心のあるエリアとして、いくつかの「関心領域(AOI:Area of Interest)」を設定。その領域内における眼球運動の特徴と、どのように関心領域の間を移動していったのかというデータを収集。それら視線のデータと、プレイヤーのゲーム中のパフォーマンスとの関係性を分析した。つまり、プレイヤーの視線がどこに、どの程度集中し、どのように移動したのかという情報が、プレイヤーがそのプレイでボスを倒せたか否かという結果とどう関係しているのかを調べたのである。 ゲームの視線調査にもってこいだった『スレスパ』のUI 研究チームはゲーム研究における視線調査について、「どこを見ていたか」や、「どれだけ見ていたか」といった事柄の調査は行われていたものの、関心領域間での視線移動の研究がやや欠けていたことを指摘。とはいえ、複雑で動的に変化しうるゲーム画面のUIでは、視線調査そのものが困難とも言及している。一方で今回調査に用いられた『Slay the Spire』のUIは、常時表示される要素が基本的に固定されているうえ、変化に富んだ戦闘シーンと組み合わさることにより、プレイヤーは状況確認と戦略の考案に意識を切り替える必要があると指摘。参加者間での比較や制御が容易な点が評価されたほか、研究の目的である視線の動きとゲームパフォーマンスの関係を測る上でも適切な題材だったと説明されている。 本調査の参加者はオーストラリア国立大学の生徒を含む32名。男女比は半々で、18歳から24歳までが54.3%、25歳から34歳が45.7%となった。参加者全員が過去に『Slay the Spire』をプレイしたことはなく、今回が初めてのプレイ体験だと報告されている。参加者はAct1の最終ボスを倒すことが目的となり、ボスに勝利できれば勝利群に、道中の敵やボスに負ければ敗北群にカテゴライズされた。なお、調査にあたってシードやマップは固定され、キャラも全員が同一のものを使用。出来る限り同じ条件になるように調整されている。結果として、勝利群と敗北群の数は綺麗に半分ずつの16人になったという。ちなみに、参加者には謝礼として単位か商品券(course credit or a voucher)が付与されたとのこと。 上の画像は調査開始時点での関心領域の設定を表したものだ。敵の意図や状態を含む「敵の情報」と、ステータス情報としての「プレイヤー情報」、さらに手札やエナジー、山札といった「行動リソース」、そしてポーションやレリックといった「補助リソース」の4つのカテゴリ、合計9つの要素が候補となった。研究が進む中では、調査対象としての一部関心領域(山札、レリック)の除外や要素の統合がおこなわれ、最終的には、明確に注目された上位6つの関心領域を設定している。 ポーションが使えると気づける視野の広さ 研究チームはまず、上述した関心領域について「どのくらいの頻度で見ていたのか」と、「どのくらいの時間見ていたのか」について両グループを分析。結果として、勝利群と敗北群の間に統計的に有意な差は見当たらなかった。とはいえ、それぞれで異なる結果が得られたため、それらは考察に値するとしている。 各関心領域について、プレイヤーが「どのくらいの時間」見ていたのかの割合(縦軸が割合、左側緑色データが勝利群、右側紫色データが敗北群) まず両グループにおける共通の傾向として、「手札」と、「敵の意図」には視線が向けられていたと報告している。上のグラフは「どのくらいの時間見ていたのかの割合(Dwell-time proportion)」について、各関心領域ごとに勝利群(Win)と敗北群(Loss)のデータを示したものだ。両グループとも各情報を確認している様子がうかがえるものの、特に「手札(Hand Cards)」と「敵の意図(Enemy Intent)」には比較的多くの時間を割いているのが分かる。 さらに勝利群については、ポーションなどの補助リソースをより頻繁に見て、滞留時間も長めの傾向にあった一方、敗北群は特に敵の意図を長く注視している。この結果について研究チームは、勝利群は主要な項目に目を向けつつ、その周囲の情報も取得していたと指摘。同参加者の視覚的な注意領域が広い可能性を示唆している。また、敗北群が敵の情報に長く注目していたことから、敵の意図を見て、必要な情報をピックアップするために、勝利群よりも多くの時間を費やしたのではないかとしている。 不安だから二度見するという循環 次に研究チームは二つのグループそれぞれで、関心領域の間の視線移動について確率のマッピングを行った。つまり、ある関心領域から別の関心領域に視線が移る際、何%でどこに移動したかを図にまとめたのである。 関心領域の間の視線移動確率についての図上図が勝利群(A. High-performing Group)、下図が敗北群(B. Low-performing Group) 両グループとも「手札(Hand Cards)」を関心領域(AOIs)の中心としており、「エナジー(Energy)」から手札への視線移動が最も強くなっている。特に勝利群では「敵の意図(Enemy Intent)」や「敵の状態(Enemy Status)」、「ポーション(Potions)」を起点として、手札へのより高い遷移の傾向が見てとれる。一方、敗北群では、この手札への遷移が比較的弱く、視線移動は敵関連の関心領域で強く維持されている。要するに、勝利群のプレイヤーは、手札を中心にさまざまな情報源へと視線を“あっちこっちに”柔軟に飛ばしながら情報を集めていたのに対し、敗北群のプレイヤーは敵の情報に視線が“釘付け”になっていた、といえるわけだ。 研究チームは結果について、勝利群はポーションなどの補助リソースと敵情報から情報を分析・評価し、手札の行動リソースとそれらを結びつけ、安定した意思決定のプロセスを行えていたのではないかと説明。一方、敗北群では、同一のカテゴリ内で情報の再取得を頻繫に行っていたとみられ、本論文では先行研究からこれについて二通りの解釈が示されている。一つは、単に敵の状態を理解するために繰り返し情報を走査していた可能性。もう一つは、ある程度情報は把握しているものの、自信が持てずに再確認しているという可能性だ。研究チームは、後者の解釈がより有力として、敗北群は自信がもてないまま何度も同じ場所を見返していたのではないかという可能性を指摘している。 初見でも上手い人は色んな場所を見て模索していた 本研究ではプレイヤーの視線移動について、二つの散らばり具合(エントロピー)の指標も検証。一つは「どれだけ多様な視線移動を行ったか」という指標。もう一つは「どれだけ均一な視線移動を行ったか」という指標だ。これら二つについて、勝利群と敗北群のプレイヤーそれぞれで比較したところ、どちらについても統計的に有意な差が見られた。 「視線移動の多様さ(左)」と「視線移動の均一さ(右)」を比較したグラフ左側緑色が勝利群、右側紫色が敗北群 上のグラフは「どれだけ多様な視線移動を行ったか(Ht:Transition matrix entropy)」と、「どれだけ均一な視線移動を行ったか(Hs:Stationary entropy)」の勝利群(Win)と敗北群(Loss)の比較だ。また二つのグラフでは、どちらも勝利群が敗北群を縦軸の値で上回っているのがわかる。 左のグラフ「どれだけ多様な視線移動を行ったか」では、縦軸Htが高いほど、より予測不可能で多様な視線移動を行っていたことを示す。勝利群では平均値M0.76、得られた値のバラつき(標準偏差)はSD0.02であった。敗北群ではM0.74かつ、SD0.04で、差はΔHt0.02を示している。勝利群が「よりバリエーションに富んだ」視線の動かし方をしていたというわけだ。この結果について、Mann-Whitney U検定という、2つのグループ間に差があるかないかを検める手法では、U 182、p0.044を示した。ここでpの値は「偶然このような違いが生まれた確率」を示す。慣例的にpが5%(0.05)以下であれば、それは「偶然ではなく、意味がある」とみなされる。したがって今回の結果も、統計的に意味のある差だと判断されたわけだ。また、統計的な検証の一つである順列検定を適用した場合でもΔHt0.02, p 0.045となった。なお、効果量はr0.36であり、これは先の値を考慮すると中程度の関連を示すと指摘されている。 同様に、右のグラフ「どれだけ均一な視線移動を行ったか」についても、縦軸のHsが高い場合は、6つの関心領域間をまんべんなく移動し、より均一な遷移を行っていたことを表している。勝利群はM0.83かつ、SD0.02だった一方、敗北群ではM0.80かつSD0.04で、差はΔHs0.02だった。U 191、p0.019であり、順列検定後はΔHs0.02, p0.026となっている。こちらもpが0.05を下回っているため、統計的に意味のある差といえる。またr0.42であり、これは中程度からやや大きな関連を示している。これらの結果から、論文では二つの指標において、両グループ間で統計的に有意な差が見られたことを報告している。 研究チームは、初回プレイにおける視線移動について、勝利群は、今回のタスクにおける意思決定について的確な情報収集を行っていたと指摘。ゲーム画面をまんべんなく見渡すことで、必要な情報を効果的に得ていた可能性に言及している。一方敗北群については、視線移動の経路や分布に偏りがみられ、限定的な遷移が意思決定に必要な情報の収集を妨げていた可能性があると考察されている。なお論文では、エントロピーの値が高ければ全てのタスクについて効率が上がるわけではない点を強調している。1点に集中しなければならないタスクや、ゲームに習熟した場合では、結果が異なる可能性もあるわけだ。 どういうUIならパッと見て行動に移せるのか 本論文では、どういった設計やUIなら得た情報を行動に結びつけやすいのかという点も考察されている。今回の調査では、敗北群においてポーションなどの補助リソースへの注目が弱い一方、敵の情報を過剰に収集する傾向がみられた。くわえてポーションを見たとしても、そこからまた敵の意図へ遷移する動きも比較的明確に存在している。これらの点から研究チームは、敗北群が「注意を向けること自体はできていたが、見た情報を行動に繋げられなかった」のではないかと指摘。『Slay the Spire』のようなゲームにおけるUIについて、知覚した情報を実行可能な行動に誘導できるような表示方法が望ましいのではないかと提案している。 具体的には、大ダメージを受けそうなときは軽減できるカードに一時的な輪郭線を追加したり、有用なポーションが使える時は、そのポーション効果を簡潔に示すサインやアイコンのようなものを追加したりしてはどうかと提案している。また、ポーションに関しては、相性のいいカードにも分かりやすい印をつけて視認しやすくすることも案として提示している。 研究チームはユーザーの注意を引きやすい刺激について、ゲームにおけるタスクの目的や、プレイヤーが有意義と感じる目標に明確に結びついたものほど注目されやすいと説明。単に目立たせるだけでなく、状況に応じて得られる情報を追加することで、取りうる行動を画面上で可視化してプレイヤーの選択を補助しつつ、UIが煩雑になることも避けられるとしている。 今回の研究では、『Slay the Spire』におけるプレイヤーの視線傾向とゲームのパフォーマンスの関係性を調査したが、本論文ではいくつかの懸念・限界点も説明している。一つはゲーム中に戦闘中の敵の増減や、登場する敵のサイズによって関心領域の位置がずれ、データに不整合が存在する可能性があるとのこと。具体的には、敵の意図(Enemy Intent)に相当する関心領域に限り、特にずれが大きかったと報告されている。研究チームは、ボス戦用や単体敵・複数敵用など、関心領域のパターン化を試みたが、それでも完全には防げなかったとしている。 もう一つが、今回の調査結果はゲームのパフォーマンスにおける因果関係を明言するものではないという点だ。同ゲームではシードやマップ、キャラを固定したとしてもさまざまな要素が複雑に絡み合っている。研究チームは、デッキ構成やカードの使い方など、単に視線の使い方の違いだけで勝敗が決定づけられるものではないと指摘。今回の結果はあくまでも、初見プレイ32人による自然な結果を事後的に分析したものである点を強調している。また、参加者が経験を積んだ場合や、ゲームが進行して高難度化した場合などは結果が異なる可能性も示唆しており、この点については長期的な研究が望まれるそうだ。 さらに、手札の調査における制限も指摘している。『Slay the Spire』ではカードによって大きく効果が異なる。今回の調査では、手札にどんなカードがあるかを考慮せず、全体を一括で関心領域として扱っており、今後の研究について、カードの効果や種類、使用するビルドに至るまで、それぞれ個別に注意に関する重みづけを行う必要があると説明している。また、今回の結果は『Slay the Spire』独自のUIやゲーム中のタスクに強く依存するものである点も強調されている。今回示された関連性や傾向が、そのままほかのゲームに適用できるかは検証の必要があるだろう。 本論文では、ボスを倒せたグループは視野が広く、UI全体をまんべんなく見て、集めた情報を効果的に行動に移せていたという傾向が示されたかたちだ。特に初見となるゲームでは、馴染みのないさまざまな情報を柔軟に処理する能力が求められるのだろう。一方で、敵がこれからする行動を理解しようとしたり、注意深く情報を精査したりして、ついつい同じところを二度見、三度見してしまうことはままあることだろう。 とはいえ今回の研究は、そうした視線移動の傾向を示す人が、そうでない人と比べて劣っているということを示すものではない。どのようなパフォーマンスを発揮するかは、そのタスクに強く依存する。論文中でも、別のゲームや習熟度によって、勝利群で高い傾向にあったエントロピーの役割は変化しうる可能性があると指摘している点は留意されたい。ひとまず『Slay the Spire』においては視野を広く持ち、色々な可能性を考慮しつつ、塔にはびこるエリートやボスに、これからも立ち向かっていきたいところだ。
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